満開の桜が咲き誇る、ある春の午後遅く。とある日本の上場企業が青天の霹靂に見舞われた。東京証券取引所に提出された書類により、物言う投資家が密かに1桁の株式を保有していたことが明らかとなったのだ…。
6月の年次株主総会シーズンに向け、数十社に及ぶ日本企業においてこうした光景が繰り広げられることになる。アクティビストは、お隣の韓国と同様に日本でも暗躍している。アクティビスト・ファンドは、最近のキャンペーン(活動)の成功に力を得て、多額の軍資金と低調な金利を背景に経営陣や取締役会に圧力をかけ、株主の投資利益率を高める活動を強化している。
なぜ今なのか?
コロナウイルスによるパンデミックが収束して以来、いくつかのアジア市場、特に日本と韓国のアクティビスト・ファンドが人員を増やし、新たな事務所を開設した。コロナによる小康状態の間、多くのファンドは資金調達とポートフォリオのリバランスと最適化に注力していた。そして今、ポストコロナの新しい状況下において、潤沢な軍資金を使って、迅速かつ大規模に資本を戦略的に投入することができるようになったのだ。また、ターゲットにLBO(レバレッジド・バイアウト)をかけるアクティビストの戦術を、低金利による借入コストの低下が後押ししている。S&Pによると、プライベート・エクイティ・ファンドは推定で3兆5000億ドルを超えるとされる過去に例を見ないレベルのドライパウダー(未投資資金)を抱えており、そのような資本を早急に活用し始める必要性が高まっていることも注目に値する。
さらに、規制当局と東証がコーポレート・ガバナンスを改革し、株主還元を強化するために取った動き (株式持ち合いの解消やポイズンピル防衛策の阻止など) は、日本企業をアクティビストにとってさらに魅力的なターゲットにしているのだ。
典型的なプロフィール
日本ではアクティビスト投資家は「物言う株主」と呼ばれている。香港やシンガポールなどの税率の低い地域に拠点を置き、上場企業に投資するヘッジファンドであることが多い。彼らがターゲットとする企業は、参入障壁が高いものの、整理統合の余地がある市場セグメントである従来型の店舗や流通システムでビジネスを行う企業であることが多い。その多くは、かつて同族経営であったことが多く、創業者一族が少数株式を所有し、経営に影響力を持っている。
アクティビスト投資家の手法
Diligent Market Intelligenceのデータによると、2023年にアクティビスト・キャンペーンの対象となった日本の上場企業は103社である。2024年第一四半期のデータは、6月の日本の年次総会シーズンに向けて、この数字が大幅に増加し、勢いを増す可能性が高いことを示している。
通常、アクティビスト・ファンドは公開企業の比較的小さな株式を1%から10%の間で購入する。プライベートな会話や公開キャンペーンを通じて経営陣に圧力をかける。最初の一斉攻撃には、企業の経営陣に公開書簡を送り、収益性の改善や株主への資本還元のために取ることができる行動について提案や要求をすることなどが挙げられる。目的は、株価を押し上げ、最終的にはアクティビストを含むすべての投資家の投資収益率を最大化することだ。
その他の一般的な戦術としては、訴訟や株主総会での議決権行使の提案、委任状争奪戦などがある。日本株の発行済み株式の1%以上を半年以上保有している投資家は、株主総会で議案を提案することができる。これは世界的に見ても比較的低い基準だ。この基準は、米国よりもはるかに低い。米国では、最も一般的な委任状行使条項では、少なくとも3年以上3%の株式を保有している株主、または最大20人の株主グループが、最大20%の取締役を指名することができる。
アクティビスト投資家が標的とする日本企業の典型的な反応は3つある。戦うか、逃げるか、もしくは「無視して彼らがいなくなることを願う」かだ。戦うよりも対立を避ける方が一般的な反応かもしれない。しかし、別の方法もある。関与し、コミュニケーションを取る。そして、経営陣とアクティビスト投資家の立場があまりにもかけ離れていて、交渉で埋めることができない場合は、より積極的で率直な防衛キャンペーンを開始して反撃する。
エデルマンには、金融関連コミュニケーションを担当する「エデルマン・スミスフィールド」を含め、世界中にスペシャリストのチームがある。ほとんどのアクティビスト投資家には確立されたプレイブックがあり、投資を展開する際にあたっては特定のエリアにフォーカスする傾向にある。経営陣と協力的かつ非公開で活動するタイプや、公然と批判を展開し公の場で争いを仕掛けるタイプなどに分類することができる。最も洗練されたアクティビスト・ファンドは、企業文化や社会規範に基づいて、特定の市場に合わせて戦術を適応させてきた。私たちエデルマンは、潜在的な脆弱性や攻撃の方向性を見極めることにより、企業がアクティビストアプローチの対象となり得るかどうかを判断することができる。また、私たちはアクティビストのキャンペーンプレイブックに精通しており、事前準備のサポートを提供することが可能だ。また、攻撃を受けている場合には、企業の防衛に対するサポートも提供している。
逃げることや、頑なに拒んだりすることは、多くの場合、効果的な選択肢ではなく、逆効果になる可能性をはらんでいる。そうした行動によって、アクティビストはさらに力を得て大胆になり、企業の頑なな態度を批判し、大株主との対話の欠如を強調してしまうことになりうるのだ。また、優良な株主、従業員、顧客、ビジネスパートナーを動揺させることにもなりかねない。また、自分自身や企業の決定を擁護しないということは、失敗や弱さを認めたと受け取られることもよくあることだ。経営陣は、アクティビストのキャンペーンを単にレピュテーション(評判)に対する脅威と見なしがちだが、先見の明のある企業リーダーはその先を見ている。彼らは、アクティビスト株主すらも、自分たちの事業戦略を洗練させる機会であり、財務実績や予測と結び付け、最終的には株主が企業の統合された戦略と財務計画について理解を深めるための重要な機会であると認識しているのだ。
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