費用の高騰、建設の遅れ、人手不足――大阪万博2025 に関わる課題は枚挙にいとまがない。開催まで1年となりましたが、日本のメディアは大阪万博2025に対して懐疑的な報道を続けている。開催の延期や中止を求める評論家も少なくないだけでなく、大阪万博のために確保された政府の資金を令和6年能登半島地震の救援と復興の取り組みに振り向けるべきだと言う意見まで飛び交っている。さらには、大阪府が運営する高齢者向けの生成AIチャットボット「大(だい)ちゃん」が、誤って万博の中止を認めるような発言をするという珍事まで発生する始末だ。その話題はメディアやSNSによって拡散された。

にもかかわらず、日本の岸田首相は、万博を予定通りに成功させることに政権の命運を賭けている。日本政府と関係機関の総力をあげて、大阪万博2025は喧伝されている通り間違いなく2025413日に開幕する。

地政学的な問題もある。日本政府は、万博をポストコロナにおける国際社会との再交流の手段と位置付けている。国際社会の緊密化を図ることができるアジアのグローバルイベントにおいて、日本は中心的な招集者としての役割を果たすことに意欲的だ。ウクライナでの戦争の長期化や中東における戦争の勃発は、国際協調の必要性を高めるばかりである。

さらに、スロースタートながら、最新情報では3月中旬までに161か国・地域とEUや国連を含む9つの国際機関から参加表明があったことを発表している。撤退を発表したのはロシアのみだ。

そのため、以下に国やグローバルブランドが大阪万博2025に参加すべき5つの理由を紹介する。

 

  1. 世界トップ20に匹敵する大経済圏でビジネスコネクションを築く
    まず、得られるベネフィットの大きさを考慮したい。大阪と京都、神戸を含む周辺の関西地方は、日本の巨大な産業基盤の中心地である。関西地方を国に例えると、経済規模は世界のトップ20に匹敵し、オランダやスイスとほぼ同じである。任天堂やパナソニックは関西をホームとする日本のトップブランドであり、ネスレ、P&G、イーライリリーなどの世界的な多国籍企業もこの地域に日本の本社を置いている。万博の会場には、50以上の日本のトップブランドがスポンサーとして契約している企業パビリオンのエリアがあることも注目に値する。

    大阪万博2025の計画を立てる際には、この重要な経済拠点で貴重な新しいコネクションを築くことができるという可能性を考慮に入れるべきだ。これらの国内外のプレーヤーと一緒に力を発揮することは、市場に対して真剣に取り組んでいるという明確なメッセージを発信することになるだろう。

  2. 日本における政府との価値ある関係性の構築
    地方創生は日本政府における継続的な政策の要であり、政党間で明確なコンセンサスが得られている数少ない政策分野の一つだ。日本政府は、リソースと投資を首都圏から関西のような地域に振り向けている。2025年の万博を東京や隣の横浜ではなく大阪で開催することは、その政策が実際に行われていることを示している。その結果、大阪万博2025に参加することは、組織や国がこの国家政策の重要な目標に沿うこととなり、首相官邸から関西の市議会に至るまで、日本の政府機関に対して影響力を深める貴重な機会となる。

    合わせて、国や企業ブランドにとって大阪2025が、下記の3番目の項目に対する重要な行動喚起のための強力なプラットフォームを提供するものと考えている。

  3. 来訪誘致の促進
    日本へのインバウンド観光が活況を呈し、すでにコロナ前の水準を超えて回復している一方で、日本人によるアウトバウンド観光の回復ははるかにゆっくりとしている。日本政府観光局によると、2023年の日本人観光客のアウトバウンド旅行は、コロナ前の2019年の水準のわずかに約半分だ。

    日本人旅行者は海外旅行に対するリスクを嫌う。大阪万博2025のパビリオンは、万博への来場が予想される2800万人の訪問者(主催者発表)に対して、あなたの国が安全な目的地であることをPRするための最適なプラットフォームとなる。記憶に残るパビリオンを出展することは、潜在的な旅行者の直接訪問への意欲をそそる重要な機会である。「海外に行くにはお金がかかりますが、万博ではパスポートなしで世界を知ることができます。」と、2025年日本国際博覧会協会の石毛博行事務局長は朝日新聞のインタビューで述べている。
    逆に言えば、参加しなければ、数十億ドル規模の市場と日本人訪問者がもたらす平均1,500ドル以上の支出の獲得を競合国に明け渡すこととなるのだ

  4. 留学生の促進

    2023年、日本政府はインバウンドおよびアウトバウンド留学生の両方に対して野心的な目標を発表した。政府は、コロナ禍以前の22万人の倍以上である50万人の日本人留学生を留学プログラムに送り出す意向を示しており、日本の大学もより多くの留学生や交換留学プログラムの誘致に力を入れている。そうした動きの一環として、日本の文部科学省は令和6年度予算において114億円の留学生への支援制度を予算化している。こうした留学プログラムを促進することも、大阪万博2025のパビリオンにおける重要な役割の一つとして考えられる。逆に言えば、参加しなければ、数十億ドル規模の市場と日本人訪問者がもたらす平均1,500ドル以上の支出の獲得を競合国に明け渡すこととなるのだ。

  5. 投資の促進
    コーポレートブランドにとって最大の魅力は、おそらく潜在的な投資機会だろう。相対的に低いベースではあるが、インバウンドとアウトバウンド投資は勢いを増している。昨年、日本政府は対日直接投資 (FDI) の目標を2030年までに100兆円 (6743億ドルに大幅に引き上げた。確かに、この野心的な目標は、インバウンド投資の5倍以上である昨年の270兆円に及ぶアウトバウンド投資に比べれば小さい。しかし、これは2022年のFDI総額の倍以上であり、以前の目標よりも25%も高い。投資機会はかつてないほど大きい。大阪万博2025は、国や企業が結集する世界最大級規模の場となる。日本は、国をあげて壮大な舞台を設定しているのだ。

大阪万博2025において他の参加者よりも抜きん出るには、慎重な計画、投資、さらには幅広いステークホルダーに対するスマートかつ効果的なコミュニケーション戦略が必要だ。国家や多国籍企業にとって、大阪万博2025はまたとない好機となる。用意周到に計画を練り、この好機を最大限に活用することをぜひ検討していただきたい。

 

本稿は、2024424日にCampaign Asia Japan に掲載されました。

本稿に関連するお問い合わせは、Edelman Japan宮崎陽介(ディレクター、政府系クライアント)までご連絡ください