海釣りが好きな方々は既にご存じかも知れないが、近年、これまで見られなかった熱帯・亜熱帯性の魚が日本各地の海で見つかっているらしい。つくば科学万博記念財団が編集発行する「つくばサイエンスニュース」によると、実際に温帯の相模湾周辺で熱帯・亜熱帯性魚類の分布が北上していることを示す調査結果が得られたとのことから、科学的にも確かなのだろう。地球温暖化や気候変動対策がアメリカ大統領選挙の争点になるほど、これまで以上に環境問題が「危機的なリアリティ」として議論されている中、日本企業はこの国際世論の荒波を乗り切ることができるだろうか。
世界が新型コロナウィルスに揺れた2020年、多くの物議を醸したアメリカ大統領選は「当選有力」とされていたバイデン候補が、徐々に「当選確実」との様相を強めている。同氏は周知の通り地球温暖化・気候変動対策の推進派であり、テレビ討論会等でもトランプ大統領との舌戦が度々フォーカスされてきた。
アメリカ国民のみならず、世界中がそういった議論に注目していた9月頃、中国の習近平国家主席が国連総会の一般討論で「2060年までに国内のCO2の排出量を実質ゼロにする」ことを目指すと述べ、多くの専門家や環境団体の称賛を得た。その1カ月後には、菅総理が所信表明演説の中で「2050年カーボンニュートラル」を宣言し、韓国の文在寅大統領も続いた。
前例のない、これだけの規模の目標を達成するためには、これまでのお家芸である既存の技術・プロセスのKAIZENを超えた「産業構造自体の変革」が欠かせないと言われているが、日本企業の実績や対応力はどの程度のものなのだろうか。東洋経済のESG企業ランキングの上位100社を見ると、1位は3年連続でSOMPOホールディングス、2位は丸井グループ、3位はオムロンと、総合得点を構成する1つの要素である「環境」で、97.3~100.0点との高得点を得ている。
しかし、これらは身内である日本人による日本企業の評価であり、時に海外視点とは大きく異なることに注意したい。例えば44位の三菱商事は、業種の欄を追っていくと「卸売業1位」ということになるが、2020年3月に国際環境NGO FoE Japanが同社の主要株主および融資銀行に対してダイベストメント(投資撤退)を求める要請を送っており、107位の三井物産(卸売業5位)に至っては、同年8月にノルウェー金融大手の運用子会社ストアブランド・アセット・マネジメントが、新たに策定した気候投資ポリシーに照らして投資除外銘柄に指定した日本企業5社の1社となるなど、日本企業は多方面からの手厳しい追及に直面している。
一般には聞き慣れないこの「ダイベストメント」は、約1200の企業や団体が宣言するなど、今や世界の大きな潮流となっている。その総運用資産額は14.4兆ドル(約1555兆円)*1にも上ると言われるほど影響力が高く、巨額の運用資金を有する機関投資家が「ESG対応が不十分」と評価した場合、融資の停止から経営難などに繋がりかねない。今は、特に石炭や石油などの化石燃料に関わるケースが顕著であるが、新型コロナウイルスをきっかけに、機関投資家が中心だったESG投資に個人投資家も関心を高める中、他業種においても無関係を決め込むことはできない。当然、環境(E)以外の社会(S)、ガバナンス(G)を含めた対応も忘れてはならない。事実、ある種のSDGsブームに沸く多くの日本企業の広報は「SDGsウォッシング」の可能性があるとPwCが指摘しており、ビリーフドリブンな消費者たちから批判やボイコットを受ける可能性は、より身近な危機となっている。もはや伝統的なCSR活動の範疇では免罪符は得られないことを、日本企業は大いに認識しなければならない。
とは言え、悲観的な話ばかりでもない。日本企業がピンチをチャンスに変える新たな機会も出てきている。例えば、2019年10月に英国のウィリアム王子が創設した「アースショット賞」がある。「自然の保護・回復」や「気候変動」など、5つの分野での環境問題の解決に取り組む個人や団体に計5000万ポンド(約68億円)を贈るこの賞は、評議委員に元宇宙飛行士の山崎直子氏などが選任されている。
また、非営利団体のTED(Technology Entertainment Design)が、気候変動を注意喚起するために立ち上げた特設サイト「COUNTDOWN(カウントダウン)」無料ストリーミング配信の中で、世界でおよそ13億人の信者を抱えるローマ・カトリック教会の頂点に立つローマ教皇が今年も、「科学がこの危機を証明している」と言及した上で、企業や団体の連帯と貢献を呼びかけた。環境問題への取り組みは、投資家の期待に応えるだけでなく、従業員のモチベーション、提携先・取引先の協力意欲などを高める原動力という点でも大きな後押しとなるだろう。
先日エデルマンが発表した機関投資家を対象とした信頼度調査の結果によると、ESG対応について企業のトップから話を聞きたいという米国の投資家の声がこれまで以上に高まっていることが明らかになった。日本企業は世界に向けて、
1.グローバル視点からの客観的な自社評価の把握
2.海外投資家やインフルーエンサーとのエンゲージメント
3.事業等の棚卸・見直しを含む、社内意識改革や行動変容
4.新たな賞や国際イベントなどを含む広報機会のマッピング
などをポイントに、戦略的な打ち手を検討し、自社の取り組みをより積極的に発信してゆく必要があるだろう。
*1: S&P Global Market Intelligence. “‘Investors slowing down on fossil fuel divestment amid pandemic, survey finds” (23 November 2020)
エデルマン・ジャパン 佐藤英子 (監修 宮崎陽介)