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残業時間を減らすことだけが、働き方改革ではなかった?本当の働きがいは「ビリーフ・ドリブン」な購買者のニーズに応えることにあり!

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政府が世界初の「過労死白書(過労死等防止対策白書)」を発表してから、間もなく1年が経とうとしています。ご存知でしたか。昨年、過労死認定が一番多かったのはトラックドライバーだったようです。発表から数カ月は大きな話題にならなかったドライバーたちも、ネット通販の拡大による宅配便急増が深刻な問題として報じられたのをきっかけに、突如注目の的となりました。でも、この一連の問題はその随分前から予見できなかったのでしょうか。平成26年度の国土交通省の報告によれば、トラック運送に携わる事業者数は 62,637者、総従業員数185万人ですが、平成20年度からは新規参入する事業者数よりも、退出等する事業者数が上回り、全体としては横ばいから微減に向っていました。対して、ちょうど同じころリリースされた総務省のデータでは、二人以上の世帯におけるネットショッピングを利用した世帯の割合が、2010年の19.7%から2015年には27.6%に増えていることを示しています。ここでは当然に高いであろう独身世帯の利用に触れていないことを考えると、ドライバー不足の問題は、やはり起こるべくして起こったと思えてなりません。

このような問題に対して、私自身、1人の消費者として「何とかならないか、微力でも何かできないか」と思い続けたこの1年となりました。しかしこの1年、日本の多くの企業がEコマースで収益を得ている中、また食品スーパーから高級ファッションに至るまで、あらゆる業種業態がトラック輸送がなければ成り立たないという中、その根底の部分の持続可能性を想って声を挙げた企業が1つでもあったでしょうか。『ドライバーさんたちにも家族との時間を作ってあげたいので、この連休は、ご購入頂いた商品の当日配送・翌日配送ができません。ご賛同頂けると幸いです』と、消費者の理解と協力を促すようなブランドが1つでもあったでしょうか。

ここではトラック輸送の問題を例に取り上げましたが、世の中には、考えさせられてしまう社会問題がまだ他にもあります。そしてその多くは、事業や産業の根底の部分に何らかの繋がりを持っています。その原材料の調達工程に、児童労働は関わっていなかったのか。今売っている商品は、障害者やLGBTのようなマイノリティを阻害していないか。シングルマザーや要介護者の家族が働きやすい勤務形態を許容しているか。このように事業や産業の「持続可能性」は、何も環境保護に限ったことではないということが、いよいよ実感を以て叫ばれる時代になってきました。残業時間の削減や深夜残業の禁止をしたり、プレミアムフライデーの導入などをしてもなお、若手社員の離職率やモチベーションの低さに、多くの企業が頭を悩ませているのではないでしょうか。日本は「熱意あふれる社員」の割合が6%しかない、という米ギャラップ社の調査データがそれを裏付けているように思います。自分は何のために働いているのか、その目標を見失い、立ち止まってそんなことを考えるきっかけもない今日、本当の意味での「働きがい」は何から生まれるのでしょうか。

これまで以上に企業やブランドのスタンスが問われる時代

エデルマンが今年実施したアーンドブランド調査によると、18歳以上の日本国民の43%が、社会的・政治的な問題に対するブランドの姿勢の如何によって、商品やサービスを購入するか/ボイコットするかを決めています。年々低下する企業に対する信頼度を反映してか、そのような購買をすることが「3年前と比べて増えた」とする人も17%いました。このような、自分が気にしている社会問題や政治問題に対して強いこだわりを持つ『ビリーフ・ドリブン』な購買者は、もはや海外だけの話ではなく、日本にも39%(10人中およそ4人)いることが判っています。そして最も重要なことは、その問題に対して、企業やブランドが自らの見解や主張を示すことを、消費者が望んでいるということです。

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『ビリーフ・ドリブン』な購買者が時代の新しいスタンダードに

食料品からクルマに至るまで、今の時代、消費者が話題にするのは、差異を知覚することが難しい「見た目や品質」へのこだわりではなく、強い共感を感じずにはいられない「感情的な衝動」や「普遍的な価値観や信念」であることは、昨年度の調査で既に明らかになっていました。しかし、信念に強くこだわる『ビリーフ・ドリブン』な購買者が、しかも国内にこれほど多いということは衝撃です。その実に53%が、社会問題や政治問題に関して沈黙を貫いていたことだけを理由に購入を止めたことがあり、逆に49%が、意見が分かれる社会問題や政治問題への姿勢に共感したという理由だけで、それまで利用したことのないブランドを購入したことがあると回答しています。35%がロイヤリティが高いユーザーとなり、29%が困難の折にも味方となってくれます。また5人に1人は、25%の価格プレミアムを支払っても良いと言っています。つまり、この『ビリーフ・ドリブン』な購買のうねりに応えるか否か、その判断がビジネスの存続に直結することが、否定しようのない事実として明らかになったのです。

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マーケティングを突き詰めると、それはH2Hな人間関係だった

国民の10人中4人が『ビリーフ・ドリブン』な購買者であるということは、企業で働く社員もまた10人中4人は、何らかの社会問題や政治問題に対して強いこだわりを持っているということを意味しています。先ほども書きましたが、子供のいじめや虐待、過労死や孤独死、ジェンダーや差別の問題から介護負担に至るまで、日本には実に多くの社会問題が溢れています。それはメディアが視聴率欲しさに報じているのではありません。「何とかしたい・何かできることはないか」と気にしている人がいるから、メディアも報じなければという想いを強く持つのだと思います。良くB2BやB2Cと言われますが、モノの売り買いだけの利害関係では、この潮流には応えられません。何かを作ることと、売ることと、買うことが、同じ想いで繋がっていること、世の中に対する問題意識や価値観について、同じ目線で語り合い、一緒になって声を挙げ、行動を起こすことを人々が望んでいるということを、あらゆるデータが示唆しています。人が自社の商品やサービスを購入するのは、単に社割が効くからだけなのでしょうか。誰よりも近くで見ているからこそ、心から惚れ込んでしまうストーリーに出会えるからなのではないでしょうか。それと同じ関係性をもっと広く、『ビリーフ・ドリブン』な購買者たちと築く必要があります。それはもはやマーケティングが人間関係(H2H: Human to Human)であると定義し直すことを示しています。

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消費者の信念とブランドの想いが一致したときに人は働きがいを感じる

マーケティングをH2Hな人間関係であると定義したとき、アーンドブランド調査の1つの大きな指標であるBRI(ブランド・リレーション・インデックス)は、日本における18カテゴリの「お気に入りのブランド」の平均が32点であることを示しています。100点満点で算出されるこの指標では、信念や価値観で繋がっていないブランドは28点に止まるのに対して、『ビリーフ・ドリブン』な関係を構築しつつあるブランドの場合は39点となります。それはロイヤルユーザーの獲得に繋がるだけでなく、お金儲けのためだけに、歯車のように働かされているというイメージを変え、そこに係る社員のモチベーションや充実感に繋がるという好循環を生むことを示唆しています。海外に進出している企業は、さらに強くこの力学に晒されます。

このような力学を理解している企業はイチ早く対応をしています。9月5日の日本経済新聞(夕刊)では「会社員が個人で参加する本格的なNPO活動を、会社が“公認”する動きが広がっている。働き方改革で、国が副業・兼業を後押しする方針を打ち出す中、企業も幅広い視点を身に付けられる複数の名刺の価値を評価し始めている」と紹介されていましたが、このような活動は従来のCSRの概念を超えたところにあります。ボランティアに係る時間や報酬の話などまだまだ課題はあるようですが、現状はなかなか社内で実現してあげられない社員たちの問題意識や価値観をNPO活動で満たそうとする点では、良い方向に向かっているのではないかと、私は感じました。そして記事の中でも引用されているように「自分に何ができるかを探る」機会が増えることで、最終的には「本業周りの仕事にもつながる」ことが理想です。それが、本当の意味で「働きがいのある」企業やブランドだと私は信じています。

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面白いことに、日本のほとんどの企業は、元来、収益を目的ではなく社会貢献の結果だと考える「創業の理念」を持っています。あるいは社名やブランド名について「●●ってどういう意味?」と深く突き詰めていくと、大概は社会性を持った起源に行きつくはずです。消費を取り巻く環境が目まぐるしく変わる中、今一度そのようなオリジンに立ち返る時が来ているのだと思います。そして、漠然とした概念のままにせず、国民が自社・ブランドに対して「声を挙げてほしい」と望んでいる社会問題を見極め、消費者と社員が文字通り手を取り合って行動を起こすことを“公認”することが、本当の働き方改革であると、私は考えています。

エデルマン・ジャパン ストラテジー・ディレクター 宮崎 陽介

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